円安でも楽しめる海外旅行

工夫して海外旅行を楽しみましょう(*•̀ᴗ•́*)و ̑̑

【完全に番外編 part Ⅲ】スペイン🇪🇸上空@アリタリア航空🇮🇹

頻繁に飛行機に乗っていると、印象が薄く記憶に残らないフライトもあれば、いつまで経っても当時の情景が鮮明に思い出されるフライトもあります。

このページでは最近の旅行の事ではなく、四半世紀以上前の私の添乗時代のアリタリア航空(イタリア国営航空)での印象に残った出来事を綴ります。

f:id:Jasmine7th:20250812234730j:image

海外添乗員の仕事を始める前、ふと「飛行機が落ちたら怖いな」とつぶやいたら、上司が消しゴムを投げてきた。反射的にキャッチすると、上司は笑ってこう言った。

「飛んだ消しゴムは途中で落ちやんかったやろ? 飛行機もそう簡単には落ちやんで。」

そして、飛行機の原理を簡潔に説明してくれた。


1996年11月11日

スペイン周遊12日間のツアー添乗で、当時存在していたアリタリア航空(イタリアの国営航空)の便に搭乗。

ルートはミラノ発、バルセロナ経由マラガ行き。

機材はエアバスで、座席配列は3―3。


私たち団体は機体中央から後方にかけてまとまって座っており、後方は我々日本人のみ。

私は非常口前の通路側に座っていて、隣の空席を挟んだ窓側には年配の白人女性がいた。前方はビジネスマンが多かった。


バルセロナを出発後、高級チョコレートと飲み物が配られ、すぐに前方からゴミ回収が始まった――その瞬間だった。


機体が突然、尋常ではない揺れ方をした。

「揺れる」というより、おそらく大きく傾きながら急降下していた。

これまでにも乱気流や一瞬ガクンと落ちる感覚は経験してきたが、それとはまったく違う、完全に“非常事態”の揺れが続く。


客室乗務員はカートを必死に片付け、静かにジャンピングシートへ腰を下ろした。

その表情は深く悲しみに沈み、この世と別れを告げるように、薄っすら涙を浮かべていた。


急降下しては上昇し、大きく傾いては激しく揺れる。単なる乱気流ではなく、機体に不具合があるのでは…と頭をよぎった。


機内アナウンスはない。誰もが「今は説明どころではない」と理解していた。

機内は緊張で静まり返っていた。悲鳴を上げる人はひとりもいない。誰かが騒ぐとパニックを誘引するだろうから、怖くて全員が声を殺していた。


窓側の白人女性を見ると、胸の前で十字を切りながら静かに涙を流していた。前方の乗客たちは遺書のようなものを書き、同じく十字を切っていた。


私は後方のツアー参加者たちを振り返った。初めての飛行機や経験の少ない方も多く、皆、硬直したように座っている。

非常事態かどうか判断しづらいだろうと、少し微笑みながら大きく頷き、「大丈夫ですよ」と目で合図を送った――が、内心では「墜落するかもしれない」と思っていた。


窓の下には濃い緑の森が広がっている。

「あの木に引っ掛かれば助かるかも」

「遺書を書くにも文章下手だし」

「手相の生命線は長いから…」

「燃料、もうないんじゃ…」

そんな考えが次々と渦巻いた。


ただ、不思議と走馬灯は見なかった。

 

着陸の際、飛行機はほぼ燃料を空にして降りる。ミラノで燃料満タンにして来ていないだろうし、もう長くは飛べないはずだ。

「どこかで着陸するか…それとも墜落か…」そんな思いが頭の中をぐるぐる巡っている。

そして視界に空港が現れた瞬間――背筋が凍りついた

「ほんまにこの状態で着陸を試みるんか!機材が叩きつけられて炎上する!」と思った。


まだ機体は左右に大きく揺れている。滑走路が見えた途端、客席のあちこちから一斉に「ギャーッ!」と恐怖の悲鳴が上がった。

左の翼が滑走路に触れそうになった瞬間、なぜか機体がふわりと浮いた。

次の瞬間、車輪が地面に叩きつけられるように着地。


恐る恐る顔を上げると、機体は滑走路をまっすぐ走っていた。

――生きている。着陸したのだ。

 

機内では、割れんばかりの大きな拍手が湧き起こった。

多くの乗客や乗員が涙を流している。命が助かった安堵と、極限の緊張から解放された喜びが、一気にあふれ出したのだろう。


一方、私が引率していたお客様たちは――墜落しかけたかもしれないという事実を、早く忘れたい気持ちが勝ったのか、涙は見せず、しばらく無言のままだった。


やがて操縦室のドアが開き、20代ほどの若いパイロットが姿を現した。

降機する全ての乗客に、ひとりずつ丁寧に挨拶をしている。

 

窓の外では、待機していた黄色い消防車のような車両が、ゆっくりと遠ざかっていった。


アリタリア航空パイロットは空軍出身が多いと聞いていたが、まさか自分とそう変わらない年齢の人が、この機を操縦していたとは――その若さに少し驚いた。


前方のビジネスマンたちは彼と固く握手を交わし、私も「グラッツェ、アリヴェデルチ」と返し、深く一礼して機体を後にした。

 

ターンテーブルで現地の英語ガイドと合流した。

私の顔を見るなり、ガイドは笑顔で言った。

バレンシアからマラガ上空にかけては、いつも乱気流だから気にしないで。」


きっと、私が受けたストレスを少しでも軽くしようとしてくれたのだろう。

その言葉をそのままお客様にも伝え、気持ちを切り替えて、アルハンブラ宮殿の観光へと出発した。